大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)1367号 判決 1965年12月03日

上告人

岩沢要

右訴訟代理人

蓼沼近蔵

被上告人

竹谷登美子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人蓼沼近蔵の上告理由第一点について。

原判決の、上告人の吉田健蔵に対する本件債務元本一六万円についての内入弁済額は九万円である旨の事実認定は、その挙示する証拠関係に照らして是認しえなくはない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用することができない。

同第二、三点について。

論旨は、債権の全部又は一部が弁済により消滅するときは従たる担保権の担保の範囲もその限度において当然消滅するものにして、担保権の登記の抹消または変更を俟つて効力を生ずるものではない、したがつて、吉田健蔵の被上告人に対する抵当権譲渡は弁済の限度において無効のものであり上告人に対し債権全額を有することを主張しえないのに、被上告人の上告人に対する代物弁済による本登記請求を認容した原判決は、大審院判例に反する違法がある、というにある。

債権の全部又は一部が消滅すれば、抵当権設定登記の抹消・変更の有無にかかわらず、抵当権の効力は消滅又は減縮し、債権譲受人が抵当権の移転登記を経由しても、債務者は債務の全部又は一部の消滅を抵当権譲受人に対抗しうること所論のとおりであり、上告人引用の大審院判決は、いずれも抵当権についてこのことを判示しているものである。

しかし、被担保債権が一部でも残存しているかぎり担保物件の全部につき担保権の実行ができることは、民法二九六条の明定するところである。その実質において債権担保の機能を営む代物弁済予約上の権利もこれと同様に解すべきであつて、債務の全部弁済があつた場合には代物弁済予約完結権が消滅するこというまでもないが、一部弁済があつたにすぎない場合は、反対の特約もしくは権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、予約完結権の行使を妨げられるものではなく、ただ完結権を行使した債権者は、一部弁済としてすでに受領していた金員を債務者に返還する義務を負うと解するのが、代物弁済の予約をした当事者の意思に合致するものというべきである。されば、これと同趣旨に出で、反対の特約もしくは特段の事由の主張立証のない本件において、被上告人の予約完結権の行使により上告人所有の本件家屋は被上告人の所有に帰し、上告人に本登記ならびに明渡をする義務が発生した旨の原判決の判断は相当である。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例